家庭内暴力
暴力がどれだけ人の心を蝕んでいくか。
暴行をうける側の痛みはもちろんですが、暴力をふるう側も実は自分自身を追い詰め傷つけていきます。
家庭という逃げ場のない場所で繰り返される暴力行為は、「話し合い」とか「受容する」とかいうまえに、まず無条件に否定されなくてはなりません。
ごく最近始まった、一回きりの暴力であるなら、本人と話し合うことでのみ解決できる場合もあります。
ただしすでに慢性化した暴力行為については、一筋縄ではいかないのです。
暴力を肯定する理由はない。
「過去に両親から傷つけられてきた」とか「トラウマを抱えている」という理由で暴力を振るう人を受容することを勧めるカウンセラーも一部にはいるようです。
しかし過去にどんないきさつがあったとしても、あなたが殴られたり、蹴られたりしてもいいはずがありません。
暴力は絶対に認められません。まずこの当たり前のことを確認しておきましょう。
あたりまえの話ですが、問題行動を起こした子供に暴行を加えてはいけません。暴力は報復を呼びます。そして連鎖します。
第三者を介入させるか、退避するか
第三者の介入について
家庭内暴力の発生する条件はふたつあります。
ひとつには家庭が「密室化」すること。
家庭内で暴力にさらされているにもかかわらず、家族が社会との接点を失い、孤立し、助けを求めずに内々だけで解決しようとしているような場合です。
もうひとつは「退行現象」
暴力をふるっている人が「子供がえり」を起こしてしまっていることです。
このふたつの条件が同時に揃うと、家庭内暴力が発生する可能性を高めます。
今、このページを読んでいる方の中には、今現在暴力にさらされている方も多いと思います。
まず、家庭の外に助けを求めてください。
まず「家に誰か来てもらうこと」です。「家族のほかの第三者に家にいてもらうこと」です。
激しい暴力も、たとえば親戚の誰かが同居してくれたり、第三者がホームステイしてくれることによって収まることもあります。
第三者が家にいてくれることによって密室化した家庭が外部に開かれるようになるからです。
以上の方法が難しい場合、警察に通報して、警察官に来てもらう方法もあります。
この場合は暴力を振るった直後に通報してください。時間をおいて通報しても効果はありません。反対に逆効果になることもあります。
これは、暴力を振るっている人を逮捕せしめ、強制入院させたり、逮捕させたりすることが目的なのではありません。
「暴力は決して認めない」という親の毅然とした態度を示すための意思表示・パフォーマンスとお考えください。
仮に警察を呼んだとしても、ほとんどのケースの場合、連行したりすることはなく、玄関先で本人を呼んで注意するだけで終わりです。
ひとつの方法として、「今度暴力を振るったら警察を呼ぶ」と予告することも暴力の是正に繋がるかもしれません。
ただし、「警察を呼ぶ」と予告して、実際に呼ばなかったりすると「通報する」という決意表明が単なる「脅し」になってしまいます。
こうなってくると暴力を振るっている本人に「なめられる」ばかりではなく本人の精神状態はより一層安定を欠き、より激しい暴力に発展していくケースもあります。
退避について
以上の方法がうまくいかない場合、退避を考えなくてはなりません。
もっとも暴力の被害にあっている方を自宅からしばらく退避させるのです。
(多くの場合、もっとも暴力にさらされているのは、兄弟と母親です)
この場合、退避の方法にはコツがあります。
予告なしに退避すると暴力を振るっている人が「自分は見捨てられた」という思いに捉われてしまい、家族としての信頼関係を大きく損ねてしまうことがあるのです。
永久に絶縁する覚悟があるのならともかく、「退避はするが見捨てたわけではない」ということは退避中も伝え続けたほうがよいでしょう。
以下にコツを列挙します。
@退避は暴力が起こった当日に行う。
A退避当日に連絡を入れる。
B退避中も定期的に連絡を入れる。
(連絡一回につき5分以内に終わらせる)
Cある程度落ち着いてきたら、一時帰宅をする。
落ち着いてきたからといって、完全に帰宅してしまってはいけません。必ず何度か一時帰宅を繰り返してから、完全に帰宅するようにしてください。
D暴力が完全に収まったところで、家庭に復帰する。
*精神科医・斉藤環先生の著作「社会的ひきこもり」(PHP新書)の中に、この退避のノウハウが詳しく載っています。
暴力の鎮静化には専門家の助言がどうしても必要です。
公共機関である各都道府県の「精神保健センター」や「保健所」などでも対応してくれるかと思います。そのほか、市役所や県庁のホームページでも相談機関はみつけることはできるでしょう。
ためらうことなく、専門機関に助けを求めてください。