うつ 症例集
「うつ」の症例をご紹介します。
症例1〜うつの症状に苦しむ女性
A子さんはアラフォーの女性。出版社で編集者として働いている。今年の春ごろから耳鳴りや偏頭痛が続き、仕事もケアレスミスが続く。アポの日程を間違えたり、簡単な誤字脱字に気がつかなかったり・・・そうそう家の鍵をなくしてしまったこともあったっけ・・・職場でのささやかな口論やいさかいも増え、仲の良かった同僚ともなんとなくギスギスしてしまう。
仕事はとても忙しく、帰宅は夜10時をまわる日々。ぐったりと疲れてしまい、料理をする気にもならない。そもそも食欲がないのだ。コンビニで簡単なおつまみを買ってきて、ビールを飲みながら時間をつぶす。
早く寝たほうがいいのはわかっている。しかし最近どうしても眠れない。少し寝付いたな、と思っても明け方近くになると目が覚めてしまいそのまま朝まで眠れない。眠れない時間を過ごすのが辛いので、明け方までスマホで時間を潰しながらぼうっとしている。明け方近くに床につくのだが、眠れたんだか、どうか。
朝起きると、体が鉛のように重い。肩がパンパンに張って、鉄板のようだ。本当は休みたい。家で終日横になっていたい。でもここで挫けては負けだ。絶対に弱音を吐いてはいけない。自らを奮いたたせて、メイクをすませ、家を飛び出していく。朝食は最近抜いている。
歯を食いしばって頑張ってきたが、ある日「ありえない」ミスをおかしてしまう。大切な原稿を紛失してしまったのだ。「なんでこんなことを!絶対にありえないことをやってしまった。自分が自分を信じられない!」
結局原稿は見つかったのだが、上司に叱責され、同僚には冷笑され・・・結局その日一日はどんなふうに過ごしたのかわからない。
何かがおかしいことはわかっている。自分が苦しいのもわかっている。でも自分の苦しみを人にはうまく説明でいないし、なぜ自分が苦しいのかも説明できない
帰り道、駅のホームで佇んでいると、ふいに消えてしまいたくなる。「このままいなくなってしまいたい」。電車のライトが近づいてくると、ふっと吸い込まれてしまうような気がする。
「いけない!いけない!」「今までこんなことを考えたことはなかったのに・・・」「自分はどうかしていまったんだろうか、壊れてしまったんだろうか?」
(複数の事例を複合した架空の事例です)
●解説
うつ状態になると様々な「異変」が心身に起こります。心身の不調に加え、職務上のミスが続いたり、良好だった職場や家庭の人間関係に齟齬をきたすようになったりします。
身体症状だけではなく、社会生活にも影響を及ぼすところに「うつ」のやっかいさがあります。
不眠などの身体症状に加え、「今まで当然できていたことができない」ことや「どうしてこんなことになってしまったのか」がわからない状況は混乱し、怖いものです。
また「死にたい気持ち」など、今まで経験したことのない感情を感じること自体もショックだと思います。
しかしながら、「うつ」は対処の医学的な対処の方法が確立された病気です。医療機関を受診し、しっかりと休養すれば回復に向かいます。
そうすれば今の辛い症状も消えていくのです。
症例2〜うまく休養をとることができない女性
B子さんは20代の女性。医療機関を受診後、うつ病との診断をうけ、ひと月ほど自宅療養することにした。
お医者さんからもらった薬を服用したら、ものすごく効くような気がする。
二日ほど休んだら元気になれたようなので、休職期間を利用して、キャリアアップのための勉強を始めることにした。
「同期の同僚たちは自分が休んでいる間も仕事を続けている。自分が休んでいる間に「差」をつけられてしまうではないか。負けたくない。」
「休職中は自分のための時間も十分とれる。休職があけて職場に復帰したときに、「休職中にこれだけの成果をあげた」という話をして、みんなをビックリさせてやろう。」
勉強をはじめて最初の2日は順調だった。どんどん元気になれる気がした。
ところが、3日目にに異変がおきた。急にがっくりと気分が落ち込んだのだ。なんの前兆もなく「折れた」という感じだった。
「どうしたんだろう。何が起こったんだろう?」
そのまま横になったものの、気分が悪い。起き上がることもできない
なんとか頑張って薬を飲んだのだけれど、今度は効いている気がしない。
「自分はどうしたんだろう。もう壊れてしまって、一生治らないんだろうか?自分はこれからどうなるんだろう?」
(複数の事例を複合した架空の事例です)
●解説
抗うつ薬は確かによく効きますが、服薬に加え、「休養すること」がとても大切です。
「休養」するからこそ薬が効くのであり、「休養」することなく服薬だけで「うつ」を乗り切ろうとしても難しい部分があると思います。
うつのリハビリ期には特有の焦りがあります。
この焦りから、心身が好調で回復を感じ始めたときに「自己啓発」や「無理な運動」をしてしまい、不調に落ち込む方がおられます。
せっかく治療が軌道にのり、回復してきているのに、もったいない話だと思います。
このB子さんの事例では、今続けている勉強を一時やめ、数日間しっかり静養すれば回復できると思います。
勉強はうつから回復すればいくらでもできます。
いろいろ思うところはあると思いますが、リハビリ期にはしっかりと静養につとめましょう。
症例3〜うつのリハビリ期に苦戦する男性
Cさんは40代のサラリーマン。うつで2ヵ月ほど休職したあと、職場復帰して2週間目。
休職期間中はのんびりできたし、回復も実感できた。よく眠れるようになってきたし、食事もおいしく食べられるようになった。
職場復帰して初日から1週間は半日の出社。机にすわっても、なんだかボーっとしていまい、力がでない。上司から声をかけられたり、指示をもらったりしても、反応が鈍くなったというか、機敏に動けない。
それでも、予定どおり出社できたことは嬉しかった。これから段階をふんで元気になれると思った。
土曜の朝は気分よく目が覚めた。「ずいぶん元気になれたなあ」、と思い気分は晴れやかだ。午後は思い切って外出し、買い物に行く。ウインドウショッピングを楽しみ、本屋に立ち寄り、立読みを2時間。
日曜日は久しぶりに息子の野球の試合を応援に出かける。2日間、充実した休日を過ごせたと思う。
異変は翌日に起きた。同僚とコーヒーを飲みながら談笑中、突然気分が悪くなり、会話ができなくなってしまったのだ。いぶかる同僚に頭だけ下げ、デスクにもどり頭を抱えた。上司に不調を訴え、その日はそのまま早退する。
あわただしく帰り自宅をして、オフィスのドアから出ていくまでの間、オフィス全員の視線が自分に集まっているのを感じた。
逃げるように、後ろを振り返らずにオフィスをあとにする。
家で横になりながら、今日一日を思い出す。
「上司や同僚からどう思われているだろう?」
「ダメな奴と思われているのではないか?」
「もう社会人として失格なんじゃないか?」
悶々として眠れない。
「自分なんて消えてしまえばいい」 ふっとそんなことを思った。
(複数の事例を複合した架空の事例です)
●解説
休職後、職場に復帰して2週間くらいの時期は、まだ体のエネルギーが60パーセントくらいしかない状態です。
この時期は自分が思っている以上に疲れやすく、リハビリ出勤中であっても、思っている以上に体に負荷がかかっているのです。
復職してまもなくのころならば、自分が思っている以上に体をいたわり、土日の休日はできれば外出ひかえ、家で静養するのがのぞましいでしょう。
上のCさんの事例でいえば、土曜日の買い物と、日曜日の野球の応援が思ったよりも体に負担をかけてしまったようです。
60パーセントしかエネルギーが回復していない体に仕事やレジャーなどで負荷をかけすぎると「うつ」の不調のスイッチとなります。
また、リハビリ期にはどうしても家族や同僚の目が怖くなったり、気になったりするものですが、これはうつからのリハビリ期期には誰しもが経験することです。
こうしたネガティブな感情を何度か繰り返しながら、回復に向かっていくのです。
また、この時期、「死にたいきもち」が出てくることもありますが、こうした気持ちが出てきたときは疲れが溜まり始めたときです。
こんなときには活動を止め、数日間、家で静養しましょう。
静養すれば死にたい気持も消えていきます。
(死にたい気持ちがあまりに強くて辛い場合はお医者さんに相談してみてください。気持を鎮める頓服薬を処方してくれることがあります。
うつのリハビリ期は苦しいものです。皆さんが苦労します。
復職してから1年くらいは、途中で適度に休みを入れながら、徐々に仕事の負荷をあげていくのがいいのです。
好調と不調の「うつの波」は苦しいものですが、こうした波を何度も経験しながら回復にむかっていきます。
上の事例のCさんも、このあと数日間休めばまた復調できますし、今後、「仕事」と「休養」のバランスをうまくとりさえすれば、1年後くらいには寛解し、元気になれるでしょう。
参考サイト
よろしければこちらもご覧ください
「ひょっとして『うつ』かな。心配だな」と思われたかた。
うつ病かどうか診断できるテストがあります
うつ病診断〜ベックうつ病診断調査票をどうぞ。
うつ病の症状にについて知りたい方は
うつ病の症状と発症の契機をどうぞ
うつ病からの回復のプロセスについて知りたい方は
うつ病回復へのプロセスをどうぞ
・うつのリハビリ中だが症状に波がある。
・突然「死にたい気持ち」が出てくる
・大切な人に突然死にたいと言われた
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