うつ病回復期の波〜リハビリ期の8つの注意事項
この文章をお読みになられるの中には、現在うつの治療中の方もおられると思います
様々な不安の中で過ごされていると思いますが、まず確認していただきたいのは「うつは治る」という事実です。
ただし、時間はかかります。
これから綴っていく文章は「うつから脱出」するための「長い時間」を過ごしていくために「注意したほうがいいこと」を8項目紹介していきます。
注意すること その1〜 うつの波
さっきまでイライラしているなあ、と感じていたのに突然悲しくなって涙が出てきてしまう・・・・
気分よく仕事をしていたのに、急に気分が悪くなってクラクラしてしまう・・・・
「もう良くなった」と感じていて、ここんとこ一週間くらいはとても調子がよかったのに、今日になって突然気分が落ち込み、死にたくなってしまった・・・
うつで休職したあと、復職した時など、このような「訳のわからない状態」に直面する人は多いものです。
「自分自身のことなのに自分自身をコントロールできない」ことはとても怖いことですし、「もうひょっとしたら治らないのではないか?」という不安と絶望感を生んだりしますね。
「うつ」からの回復時にはこのように「調子のいい時」と「悪い時」の波があります。
この波は数日おきに繰り返す場合もあるし、一日のなかで繰り返す場合もあります。
こうした波を繰り返しながら回復に向かっていくのです。
そしてこの「うつの波」は錯覚を呼び起こします。
「せっかく良くなってきたのに、また最初からやり直しだ」
「もう治らない。元気になれることはないのだ」
こうした錯覚はただでさえ辛い症状を後押ししてしまいます。
実は波があるのは「あたりまえ」の事なんです。波があることがうつの特徴なのです。
決してあなたがダメになってしまっていたり、壊れてしまっているわけではないのです。
あなたの周囲の人たちの目に映るのは「比較的調子の波がいいとき」のあなたです。だからこそあなたに期待をしてしまいます。
でもあなたは「とても調子波が悪い時」の自分を意識してしまいます。だからこそ「周囲に理解がない」と感じてしまいます。
こうした認識のギャップがあると、辛いですよね。
うつは「気分の上下する波」を細かく繰り返しながら回復に向かうということを覚えておいてください。
気分のいい時はその状態を楽しみましょう
問題は気分が落ちてしまっている時です。
その時にはまず「一時的な落ち込み」であることを自分にいいきかせましょう。
また症状が悪化したということではありません。
あくまで一時的な落ち込みです。
そしてそういうときには無理に頑張るのはやめましょう。
少し休めば、また気分はあがっていきます。
注 ただし、「うつ」からの回復期に無理をして、疲労をためてしまうと、回復が遅れてしまい、気分の落ち込んだ状態が固定してしまうこともあります。
そういった時には担当医に相談のうえ少し休んだほうがいいと思います。
うつからの回復期に疲労は大敵です。
注意すること その2 感じにくくなっている疲労
好調を感じていたのに、突然気分が悪くなってしまう。
これでは自信を無くしてしまいますよね。
こんなときには、「気分が悪くなったとき」の前に日常の中でどんな出来事があったのかちょっと振り返ってみましょう。
知らない間に疲労がたまってきていませんか?
うつのときには「疲労の知覚システム」がうまく働かず、疲労を感じる力が鈍くなっていることがよくあります。
マラソンをいていると疲れます。疲れるとマラソンをやめたくなります。
もし「疲労の知覚システム」がうまく働かないとマラソンをしていても、疲れを感じることができないままマラソンをつづけてしまうことになります。
体力があるときならば、「疲れたとき」に「疲労の知覚システム」が働き、活動をやめさます
しかし、「うつ」のときには「疲れている状態」でもそれを感じることができず活動してしまうことがあるのです。
うつのリハビリ期、好調なときにはどうしても活動のスケジュールをつめこんでしまいがちです。
その結果、疲れを感じることができないまま疲労をためてしまい、その「ため込んだ疲労」が「気分の悪さ」や「落ち込み」の引き金になっているのです。
うつの波が下降線をたどっているのなら、一度立ち止まって休むこと。
うつが悪化しているわけではありません。
数日おとなしくしていれば、また元気になれますから、大丈夫。
注意すること その3 リクラゼーションの方法にご用心
お医者さんに行って、しっかりと休んでいればだんだんと回復を感じられるようになります。
気分のいい時には遊びに行ってみたくもなりますし、普段できない勉強なんかもやってみたくなるものです。
元気になれていることは素晴らしいことですし、「リラックスしたい」という気持ちはよくわかるのですが、気をつけねばならないことがあります。
旅行や運動、趣味の活動など、元気なときにはなんでもないレクリエーションがうつの治療中には体力的負担になってしまい、うつからの回復を遅らせてしまうことがあるのです。
たとえば、温泉にドライブに行ったりする時のことを例にして考えてみましょう。
@旅行の計画をたてるためにインターネットで、高速道路の道順なんかを調べてみる。宿に電話で交渉をする。
A出かける前に車の点検をする。ガソリンを入れる。
B宿につくまでに車の運転をする。途中で渋滞に巻き込まれる。
C宿について温泉につかり、のんびり過ごす。
D宿を出て、家に帰るのに渋滞に巻き込まれる。
Cの「温泉につかる」ところは確かにリラクゼーションにはなっているのですが、旅行の前段の@〜Bと帰り道のDの部分には結構ストレスがたまり「しんどい部分」があることがわかります。
この「しんどい部分」は旅行の楽しい部分とか爽快な部分に隠れてしまい気がつきにくいものですが、自分でも気づかないうちに疲労をため込んでいきます。
「レクリエーション」には「楽しみ」や「ストレス解消」の効果のほか、体力を消耗させてしまう「しんどさ」も同時にあることを意識してください。
うつからの回復期に気をつけたほうがいい「レクリエーション」をいくつかあげておきます。
@旅行
A激しい運動
B自己啓発のための読書
C長時間のインターネットの使用
D無駄遣い 大きな買い物
Eライブ
Fギャンブル
G飲み会 飲酒
生活していく中でいろいろと制約があり、窮屈かもしれません。
気持ちはわかるのですが、今は少し自重しましょう。
元気になりさえすれば、思う存分趣味やレジャーを楽しめるのですから。
注意すること その4 活動のさじ加減を考える
うつの治療が順調にすすみ、体力の回復を感じられるようになると、いろいろな面で意欲が出てくるときと思います。
・キャリアアップのために勉強をはじめてみよう。自己啓発に努めよう。
・体を鍛えるためにスポーツクラブに通ってみよう。
・そろそろアルバイトを探してみよう。
・もうそろそろ定時退社をやめて、残業しても大丈夫ではないか?
いろいろなことを試してみたくなるときだと思います。
それはとてもいい兆しです。
気持ちが前向きになるのは素晴らしいことだと思います。
ただし、ちょっと注意事項を。
どれくらいの量と時間頑張るのか、そのさじ加減に注意してください。
アルバイトなら
週にどれくらいの日数、どれくらいの時間で働く?
ランニングなら
どれくらいの距離を走る?毎日走る? 週3日にする? 週1日にする?
といった具合のさじ加減です。
リハビリ期に活動の幅を広げていくならば、同時に「退路」を確保しておいたほうがいいでしょう。
アルバイトを始めるなら、「しんどくなったらすぐに辞められる」バイトを選ぶこと。
旅行に行くなら、帰ってきた後にすぐに休めるように予定を調整すること。
さじ加減が大きすぎると、一時的に不調の波が来てしまいます。
気分の不調が訪れたら、さじ加減を調整してください。
もしも不調を感じたら「勇気をもって休むこと」です。
ランニングだったら、「今日は走る予定だけれど、やめてみる」「今週3回走ってみる予定だったけれど、今週は走るのやめる」といった具合です。
アルバイトだったら、「明日出勤する予定だったけれど、思い切って休みの連絡を入れる」といった具合を考えていただければいいでしょう。
思い切って活動を休止してみれば、また気分は上がってきます。
活動量のさじ加減は人それぞれです。
また同じ人でも時期やタイミングによって違います。
結局のところさじ加減は自分でつかむしかありません。
このさじ加減を覚えるということがうつからの回復を意味するのではないかと思います。
進む勇気と立ち止まる勇気。
そのバランスを体得していきましょう。
注意すること その5 他力を借りる
うつで非常に苦しい思いをしているのに、それを悟られないようにふるまう方がおられます。
内面がとてもしんどくとも人前ではにこにこと笑顔をふりまいたり、大声で周囲のひとたちを鼓舞したり・・
周囲の人っから見れば、「元気になったな」と感じることもあり、内面の苦しさなどはなかなか想像がつかないものです。
家族や同僚の方たちから「ずいぶん元気になってきたね」と言われると、「いや実はしんどくて」と本当のことを言いづらくなってしまいますね。
うつのときには「自分はもっと頑張れるのではないか」という疑念がわいてくるときがよくあります。
「自分は甘えているのではないか」という自分を責める気持ちと「自分はダメになってしまうのではないか」という「自分自身についての不安」がまざった気持ちと言い換えてみてもいいでしょう。
「自分は怠けているのではないか?頑張ればもっとできるのではないか?」
「いつまでも苦しそうにしていてはバカにされてしまう。自分がダメだと思われてしまう」
「早く会社に復帰しなければ、会社から干されてしまう。」
「いつも同僚に迷惑をかけてしまって申し訳ない。少しぐらい苦しくても自分が頑張らねば・・」
こんな気持ちを否定したくて、辛くても苦しくても頑張ってしまうのです。
人の助けや情けをうけることを潔しとしない気持ちはわかります。
自分の弱さを表現することは勇気がいることです。
ただ、自分が苦しいのならば、人の力を借りてもいいのではないでしょうか?
困ったときはお互い様なのですから。
「悪いのだけれど、休みたい」
「これは今は無理。」
「つらい、話をきいてもらいたい」
自分の弱さを表現することは悪いことではありません。
自分がピンチのときにはなおさらだと思います。
辛いときには辛いと家族の方や会社の方に伝えてみましょう。
うつのときには「自責感」(自分を責める気持ち)や「不安」が増大してきます。自責感や不安は誰にでも普段からあるものではありますが、うつ状態のときには自責感と不安が必要以上に増大してしまいます。
「自分を責める気持ち」や「不安」は病気の症状だということをまず確認しておきましょう。
病気の症状ですから、治療をしていれば治ります。
今は苦しくて、なかなか信じていただけないでしょうが、うつの回復につれて辛い気持ちはだんだんと薄らいできます。
注意すること その6 病院とのつきあい方
精神科に限ったことではないのですが、お医者さんの中にはとても腹立たしい態度をとる人が多いですよね。
せっかく勇気を出して受診して治療をはじめたのに、医師の無神経なひとことに大きく傷ついてしまったり・・・
最初のうちはいろいろと話を聞いてもらえたのに、慣れるにしたがって愛想がなくなって薬を出してるだけ・・・
病院や医師との関係のつまづきで、通院や服薬をやめてしまう方も多くいるようです。
でもちょっと話を聞いてください。
うつ病の治療に病院での治療は必須です。
納得できない方もいると思います。
しかし「どうしようもない気分の落ち込み」や「とりとめのない不安」、「衝動的に死にたくなる気持ち」などの辛い症状は薬を飲むことによってあるていどまで緩和していくことが可能です。
病院はうまく利用すれば、必ずあなたの助けになるのです。
「病院とのつきあい方」をここでお伝えします。箇条書きにしますね。
@よく効く薬を出す医者がよい医者である。
薬を飲み始めてから、「自分の調子が良くなっているのか、悪くなっているのか」を考えてみてください。
「薬が効いている」と感じられるのでしたら、多少そのお医者さんの愛想が悪くても通院を続け服薬を続けてください。
精神科の薬の場合、一番最初に飲み始めてから効き始めるまで、だいたい3週間くらいかかることがあります。
A薬の効き具合と副作用について伝える
「薬がどうも効いていない」とか「副作用が苦しい」ようでしたら、それは遠慮せずに医師に伝えてください。
悩みごとの相談や世間話には冷たいお医者さんでもはそうした「治療の成果が出ているのかどうか」という情報は熱心に聞いてくれます。そして薬を調節してくれます。
B急な断薬は危険です。やめてください。
「もうだいぶ良くなった」と思って、いきなりいままで飲んでいた薬をやめてしまうと、急に症状が強くでてしまうことがあります。薬は徐々にすこしづつ減らしていくのがセオリーです。お医者さんと相談のうえ減らしていきましょう。
副作用が辛い場合は、次の受診日まで待たないで、お医者さんにいきましょう。出ていくのがしんどいようでしたら、お医者さんに電話をかけて対処の方法を聞いてください。
Cドクターショッピングはすすめられない。
お医者さんをたびたび変えてしまうことはおすすめできません。今まで飲んでいた薬の情報なしに、無計画に薬を変えてしまうと、いわゆる「薬の飲みすぎ」であたまがぼうっとしてしまったりすることがあります。なによりも、現在の症状が「うつによるものなのか。薬の影響なのか」ということがわからなくなってしまうことがあります。
お医者さんの治療に疑問をもったときには、セカンドオピニオンをうけるといいでしょう。今かかっているお医者さんに、「どのような診断をしたのか」と「現在飲んでいる薬の種類」など「今までの治療についての情報」を紹介状に書いてもらい、別のお医者さんを訪問するのです。
注意すること その7 「なぜ生きるのか」という悩み
うつ病のリハビリ期の波 その7〜「なぜ生きるのか」という悩み
「自分の生きている意味はなんだろう?」
「自分の人生に何か意義はあるのだろうか?」
うつから回復してくる過程で、このような大きなテーマについて思いを巡らすことがあります。
元気なときには考えもしなかったのだけれど、なぜかこの時期考えてしまう・・・
気持ちの裏側には「自分が周囲の足を引っ張っている」とか「周囲に責められている」という気持ちがあるのかもしれません。
でも、「なぜ生きるのか」という問いに自信をもって答えられる人はまずいないのではないでしょうか?
ましてや今は「自分は役にたっていない」という自責感や「この先自分はどうなるのだろう」という不安感が必要以上に大きくなっている時期です。
このような時期に大切なことは「なぜ生きるのか悩む」ことを一度棚上げしてみる勇気です。
元気になりさえすれば、自分なりの答えはきっと見つかります。
あなたにとって大切な問い」はいまは棚上げしておきましょう。
でも安心してください。
「なぜ生きるのか」が気になりだしたのは、元気になりはじめた証拠です。
気力と体力が回復してくると、活動の幅が大きくなり、「うつ」が酷いときには考える余裕がなかった「なぜ生きるのか」という深淵なテーマにも関心が向くようになってきているのです。
それは「うつ」という辛い経験をしてきたあなたが、「新しい自分」を発見しようとしているということかもしれません。
ここまで来ればもうひとき
あともう少しの辛抱です。
注意すること その8 「不安」と「焦り」の悪循環
「うつ」は治療法が確立している疾患です。
医療機関を受診し、「しっかりと休養すること」ができれば回復していきます。
ところが「しっかりと休養すること」が想像以上に難しい。
それは「うつ」が「焦り」と「不安」をどんどん拡大再生産していく疾患だからです。
この「焦り」と「不安」が「しっかりと休養すること」を妨げてしまいます。
「早く回復いなければ」という「焦り」と「不安」にかられて、人は「魔法」を探し始めます。
しかしながら、「魔法」探しを続ける過程で、疲れ果ててしまうのです。
疲労は心身の不調をよび、不調に見舞われるたびに今度は「自信」を失ってしまう。
失った「自信」を取り戻すために再度、「新しい魔法」を探し始める・・・
魔法探しに明け暮れるようになり、「疲労による消耗」と「自信の低下」を繰り返すような悪循環に陥ると「うつからの脱出」はかえって時間のかかるものになってしまいます。
うつからの回復には「魔法」はありません。
しかしながら、時間をかけてしっかりと体力を回復させていけば、確実によくなっていくことができます。
時間は確かにかかりますが、「うつからの回復」にむけて、一歩、一歩、進んでいきましょう。
心の相談室 りんどう 担当カウンセラー 馬場健一
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参考のページ
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